華麗なるピタゴラスイッチ、『ミックマック』

監督はあの『アメリ』で一大ブームを巻き起こしたジャン=ピエール・ジュネです。 私は彼がフランス人監督の中で一番好きですね。彼の作品はすべて観ていますが、『ロスト・チルドレン』と『ロング・エンゲージメント』が特にお気に入りです。

この『ミックマック』はどんな映画かと言いますと、一言で言えば男性版アメリ。(ちょっと乱暴だけど)そしてその出来はアメリを超えているっていうか今までのジュネの作品の集大成と言っても過言ではないと思います。

父親を地雷で亡くしたバジルはある晩に銃撃事件に巻き込まれてしまい、頭に流れ弾を残したまま生きていくことになる。入院している間に家も職も失いホームレスになるが、何十年も監獄にいてギロチンで死に損なった[ギロチン男]と出会う。そして彼の住む隠れ家で7人の奇妙な仲間たちと暮らすことに。バジルは地雷を作った武器会社と自分の頭に残る弾を作った武器会社の2社に復讐をするために7人の仲間たちと力を合わせて次々に「いたずら」を仕掛けていく。

暴力には暴力をというのではなく、あくまでも「いたずら」の範疇の復讐というところがすごくジュネらしいと思いました。『アメリ』ではちょっとのいたずらが世界を幸せにするというテーマでしたが、今作もその延長でちょっとのいたずらが世界を平和にするというテーマがあります。『デリカテッセン』や『ロングエンゲージメント』でもそうだったけれど、彼は「戦争反対!!」とストレートに表現するのではなく、皮肉を交えたり茶化したりしながら平和を願う人々が登場するのがすごくいいです。コミカルでファンタジーなんだけど、実際はとても時事的な問題を提議しているメッセージ性の高い作品。

『ミックマック』の原題は"MICMACS A TIRE LARIGOT"というんだけど、MICMACSはフランス語で「いたずら」、A TIRE LARIGOTは副詞句で「たくさん、多量に」という意味なので、つまりこの映画には「いたずらがいっぱい」ってことで…まんまだね(笑)このいたずらの質の高さはまさにピタゴラスイッチ

ジュネの映画の舞台は常にパリ。
デリカテッセン』は核戦争15年後のパリ。
『ロストチルドレン』は近未来のパリ。
ロングエンゲージメント』は第1次世界大戦後のパリ。
そして今回の『ミックマック』は現代のパリ。
アメリ』も現代のパリだけど、アメリの目を通した幻想のパリだと私は思っています。だからあんなに可愛らしくてキラキラしていてレトロな世界観なのだろうと。 『ミックマック』が男性版アメリと言ったのは決してアメリのようなガールズムービーではないという意味も含まれています。コミカルな「いたずら」や奇妙で個性的なキャラクターが登場する点ではアメリっぽいけど、背景の清潔感のない薄汚れた感じはリアルなパリを映しています。 それはやはりさっきも言ったようにより現在性の高い問題を提起しているからなのだろうと思うのです。

見ていて気づいたんだけど、ジュネって屋根の上で何かするシーンが好きですよねw ネタバレで申し訳ないけど今回も屋根の上がいっぱい出てきます。今回もパリの至る場所でロケされているんだけど、駅の構内にある黄色いチケットの自販機やSNCFのアナウンス音がものすごく懐かしくてぐっと来ましたwオペラ座付近のギャラリー・ラファイエットムーラン・ルージュオルセー美術館もさりげなく出てきますよ♪

詩人がどんな死に方をしたかっていう会話の件で、ランボーボードレールなどの有名どころが挙がる中に「ネルヴァル」が出てきたことがとっても嬉しかったです。すごく個人的な喜びwww

製作に携わった人たちを見ると、毎回ジュネ作品に参加しているような常連ばかりなんだけど、撮影監督がなんと日本人なのですよ。永田鉄男さんはフランスを拠点に活躍しているらしく、オドレィ・トトゥのシャネルのCM製作もジュネがやったんだけど、撮影はこの永田さんがやったんですって。他には『エディット・ピアフ』、『大停電の夜に』とか、先週くらいから公開している『レオニー』の撮影もやっているので今後の活躍も楽しみです。

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