泥にまみれた仕合せ、『ヒミズ』

鑑賞してからかなり時間が経ってしまいましたが、パンフレットを読みながらシーンを思い出し、鑑賞直後に書き留めていたメモを見て感想を書きたいと思います。

古谷実のあのヒミズが、あの園子温で映画化と聞いて思わず机を一打し「なにぃ?!」と叫んでしまいました。基本的に原作に思い入れが深い作品の映画はなるべく観ないようにしているのですが、これは観る前から絶対にものすごい映画だという確信がありました。しかしながら私の居住する地方ではセカンド上映ということで、世間があーだこーだと『ヒミズ』の感想を述べている時は耳を塞いで原作の復習をしていました。

私この映画好きです。少しやりすぎで滑稽なシーンもありますがその泥臭さもまた青春だと思うのですね。茶沢さんが壁一面に住田語録を貼って瞳を輝かせながら叫び、住田くんを思い出してはきゃっきゃと悶える姿は昔の私にも覚えがあります(今でも時々)。振り返ってみればなんて幼稚で馬鹿なことをしたんだろうと思えることも、当時の自分からすればくそ真面目に少ない脳味噌をフル回転して出した答えを実行に移したというだけで、その時はそれでよかったのだ。住田くんが顔に絵の具を塗りたくり紙袋に包丁を入れて彷徨するのも、彼にとってはそうするのがその時の最善策だったのだと思う。

拍手喝采若手俳優、染谷翔太と二階堂ふみ。彼らは本当に素晴らしいと思いました。住田くんのすべてを見下したような眼差しや吐き捨てるような喋り方。茶沢さんはエネルギーをコントロールしきれずに暴発する弾丸のようだった。恐ろしいほど大人びた表情を見せたかと思うとふとした瞬間にあどけない顔を見せる二人は子どもと大人の中間地帯を不安定ながらも爆走しているように見えた。私は二人ががんがん叩き合ったり激しい口喧嘩をするシーンが気に入っています。自分が中学生の頃を思い出すと中2ぐらいまでは普通に男子と殴り合いの喧嘩していたのですが、中学生の男子って女子と言えども全然手加減しないで喧嘩するんですよね。これってまだ男と女だという性的な意識を持っていないという証拠なのだと思います。原作では二人が昼間っからヤりまくってる描写もありますが映画でそういったシーンがなかったのはそういうことなんだろうと思いました。

ヒミズ』撮影期間中に3.11の震災が起こり、急遽脚本を変更して震災後の日本を舞台にしたとのことですが、震災直後の映像をカメラに収め、震災から一年も経たないうちにこの映画を上映するということにとても感銘を受けました。ただ普通に生きたいと願う少年が突然天涯孤独になってしまうというのは、震災によって一瞬で瓦礫の山と化してしまった街を見渡す気持ちとリンクする。この映画は震災がテーマではなくてあくまでも住田くんの物語なのであまりここにこだわる必要もないとは思うけれど、少なくとも今回の震災で住田くんのようにもがく人が増えたのではないだろうか。最初に教師が言った「がんばれ住田!世界にたった一つの花だ!」という台詞も茶沢さんが言うとがつんと心に響くあの感覚。原作では命を絶ってしまう住田くんが「がんばれ住田!」と土手を走る姿を見てとても救われた気持ちになりました。あのシーンで号泣した私はエンドロールで涙を乾かそうとしましたが、意外にも早くスクリーン内が明るくなってしまいぐちゃぐちゃの顔のまま帰路につきました。

ヒミズ 1 (ヤンマガKC)

ヒミズ 1 (ヤンマガKC)