青い部屋はダメだよ、『ブルーバレンタイン』

ブルーバレンタイン』(2011)


「今年一番の映画です!!」という感想が多々聞かれたこの作品。どれどれと観に行ってみたのですが…。結論から言えば胸焼けと眩暈を起こして真っ青になってしまうような映画でした。

あるカップルのラブラブ時代と冷え切った現在を交互に映しながら時の流れと二人の愛情の変化をリアリスティックに描こうとした作品。まず冒頭の夫婦のやり取りから見て感じるのは妻のシンディはすでに夫ディーンに対して冷めた態度を示しており、家事、育児、仕事で疲れきって常に苛立っている状態であるということ。対するディーンは娘と無邪気に遊び妻にも冗談を言ったりするが相手にされず結局は妻と娘を見送りながら「マザファカッ」と罵声を浴びせる。ディーンは一見すると子ども好きで陽気な旦那に見えるが、実際は朝から酒を飲み近所のペンキ塗りをする程度の体たらくっぷりで、看護士という激務に追われるシンディはそんな彼が疎ましい。

それでもディーンはシンディとの関係を修復したい気持ちはあり、娘を祖父母の家に預けた機会にラブホテルを予約する。私はディーンを好意的に思いながらシンディの気持ちになって観ていたのだが、シンディと同様ラブホテルには行きたくないと思った。長期間付き合ってセックスも減ってきたカップルがラブホテルに行く理由とは何か?「とりあえず一発ヤれば昔のように燃え上がるだろう」という単純で浅はかな考えによるものだと思う。男性はこれでいいのかもしれないがしかし女性はそうはいかない。せめてラブホテルの部屋が「キューピッドの入り江」だったらきっと内装もピンクや赤のラブリーな感じでちょっとは気分を盛り上げてくれただろうに、ディーンは「未来の部屋」という真っ青で無機質な金属のドアの部屋を選んでしまった。赤などの暖色系は気分を高揚させ、青などの寒色系は沈静させるってよく言うじゃない!!シャワーを浴びるシンディに迫ってそのままセックスの流れに持っていこうとするもあっさり交わされ、思い出の音楽で盛り上げてもダメ。無理やり抱こうとしても歯を食いしばりレイプしているかのよう。悲しい。

とまぁ最初は好意的に見ていたディーンも最終的に女のようにねちねちしつこく挙句の果てに泣き出したり、もう女々しくて見てらんない!!てかたった結婚7年目でなんでこんな疲れきってんのさこの二人は。まだ子どもだってあんなに小さくて可愛い盛りなんだから夫婦の愛情が子どもへと注がれている時期のはずなのに。始まりと終わりしか見せてくれないので途中経過で一体どんなことがこの夫婦に起こっていたのかは想像するしかないのですが、結局この二人はまだ精神的に子どものままなのだと感じました。特にディーンの方。二人の間に積もり積もった鬱憤というのはきっと始まりからすでに悪性因子としてあったもので、当時は恋愛フィルターで見えなくなっていたのだろう。中流階級の家に生まれ医者志望、将来有望と言われていたシンディは素行の悪さが祟ってガチムチな元彼の子を孕んでしまったことが運の尽き。恋の熱に浮かされたディーンが一緒に育てようと言ってくれたのは嬉しいが医者の夢は諦め看護士止まり。おまけに旦那はブルーカラー。歌と絵の才能はあるのに楽な方に甘んじるディーンへの苛立ち。ディーンは憎らしい男の子であるフランキーを本当によく可愛がっているけど、本心では自分の子だって欲しい。そういったことが結婚生活を送るにつれてフィルターがはずれていき現実を突きつけられて「こんな未来を望んでいたんじゃない!!」と駄々をこねた。

もうね、最後の花火とタイトルが出た時なんか吐き気がしましたよ。平日の昼間で一人で見に来てる男性が多かったのだけど、そそくさと席を立ったのは私だけじゃなかったのできっと同じように感じた人はいるはず。おえぇぇ。

マンネリで別れを切り出したいけどずるずる来てしまってるカップルにはこれを二人一緒に観て、「じゃ、そういうことで」とお別れすることをお勧めします。

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