幽霊はポイント制、『ステキな金縛り』

『ステキな金縛り』(2011)

みなさん金縛りってなったことあります?私は8時間以上寝ると金縛りになる体質で、幾度となくその非現実的な体験をしてきました。金縛りになるとまず呼吸困難に陥り身体はその名の通り動かせず、声も出せなくなります。金縛りに遭っている時に幽霊を見たとかおかしな声を聞いたという話をよく聞きますが、これはすべて夢なのです。自分が寝ている夢を見たことがあると思いますがそれと同じで、寝る直前に見た光景が夢に出てきているのです。だがしかしそうなるとこの『ステキな金縛り』の話自体つじつまが合わなくなってしまうのでこの辺で無駄話はやめますね。

深津絵里が演じる主人公のエミはとにかくドジな弁護士。寝坊するわ裁判中に資料ぶちまけるわ訳分からん理論をしたり顔で言い放つはもうむちゃくちゃ。そんな彼女に奇妙な殺人事件の依頼があり、名誉挽回の為と張り切るエミ。被告人は事件当夜、山奥の宿場で金縛りに遭っていて身体の上に落ち武者の幽霊が乗っかっていたというアリバイを主張しているのだった。それならその幽霊を連れて来て証言させればいいというこれまた無茶な提案でお話は展開していく。

さっきからむちゃむちゃめちゃめちゃ言ってるけど三谷ワールドの魅力はこの奇想天外なストーリー展開にありますよね。といってもすべてが新しいというわけではなくてむしろその手法は古典喜劇を彷彿とさせます。法廷で様々な登場人物が入れ替わり立ち代り現れててんやわんややるのは古代ローマ喜劇から始まりシェイクスピアなども取り入れています。観客はあたかも法廷の傍聴席で一緒に裁判を見ているかのような錯覚を覚え、その一体感がより観客を惹きつけるのだと思います。弁護士エミが連れてきた落ち武者の幽霊、更科六兵衛は誰にでも見えるわけではなく「ある条件」が必要というのが味噌。「科学で証明できるもの以外は信じない」と言い張る敵方の検事(中井貴一)をどうやって信じさせるか、どのように証言をさせるかを頼りない弁護士と一緒に考えて一喜一憂したりするのがとても楽しいのである。

主役の深津絵里はまさに体当たりの演技を見せた素晴らしいコメディエンヌっぷりでくるくると変わる表情は愛らしかった。前から思ってたけど彼女は声の響きが素敵だと思うのですよね。凛とした張りのある声で、全編通して出ずっぱりなのに飽きさせない魅力を持っています。
西田敏行演じる六兵衛はその佇まいからして笑いを誘うユニークさがあり、意外とわがままでエミを困らせたりする。未だにこの世を彷徨う幽霊という身ゆえの制約もまた色々とあっていちいち笑かしてくれる。その一つが「幽霊は食べ物を食べられない」ということでファミレスでバカみたいに料理を注文しまくっておいてただ匂いを嗅いだりメロンソーダをぶくぶくしたりするだけ。幽霊になってこの世に留まるのは楽しそうだけど、美味しいものを目の前にして匂いだけってのはなんとも耐え難い!!
三谷映画ならではといえるのが豪華な脇役陣。あんな人やこんな人が本当にチョイ役でちらっと顔を出したり、ものすごい大御所がとんでもなくマヌケな役をしていたり。エンドロールを見ながら、あれ、この人どこに映ってたの?なんてのもあったりして隅から隅まで見逃せないのです。

と、ここまで誉めに誉めまくってきたのですが、実はわたくしラストがいまいちだったかなと思ってます。どうせならもうとことん感動的にして最後に一つまみ笑いを入れる程度にして欲しかったのだけど、ちょいちょい笑いを挟んで茶化しているが故に少し距離が生まれてしまいました。せっかく亡き父親の思い出とか伏線で入れてきたのに生かしきれていなかったような気がしました。近くの席からはぐすんと鼻をすする音が聞こえたのでしっかり感動した人もいるのかもしれませんが。

それにしても金縛りに遭っていたから動けなかったというアリバイは現実世界では通用するのでしょうか?まぁ単に寝ていたって言えばいいだけな気もしますがね。

「ステキな金縛り」オリジナル・サウンドトラック

「ステキな金縛り」オリジナル・サウンドトラック