日本のテクノロジー、『トイレット』

『トイレット』(2010)

日本人が海外旅行へ行って自国との仕様の違いにまず顔をしかめるのはトイレではないだろうか。温かい便座にウォシュレット付きの至れり尽くせりなトイレに慣れてしまった私たちにとって、海外の冷たい無機質な陶器の便座はひやっと飛び上がらせる。デパートなどのトイレではアルコールで便座を消毒できたり、女性用トイレには小便のちょろちょろ音を消すための「音姫」が備え付けられていたりする。家のトイレが一番落ち着くなんていう人が結構いて本を置いている人もいたりしますよね。(私も一、二冊常備しています。)逆に、外国人が日本へやってくるとこの隙のないトイレに感嘆、狂喜乱舞し、「トイレにこそ日本のハイテクノロジーが象徴されている!」と雄叫びを上げるのです。

本作は日本映画なのに舞台はアメリカ(撮影場所はカナダだけど設定は北米東部)、使用言語も英語という少し変わった映画。日本人の母親が死に、墓の前に佇む三兄妹。パニック障害を患い4年間引きこもりピアニストの長男モーリー、企業付き実験室勤務でロボットオタクの次男レイ、生意気でロックな大学生の妹リサである。そしてもう一人母親が残したのが日本から呼び寄せたもたいまさこ演じる「ばーちゃん」。このばーちゃんはまったく英語が通じず一言も言葉を発しないのだが、朝トイレから出てくると深いため息をつく。おまけにいつも難しい表情を浮かべているので三兄妹はどう接したらいいのかわからず戸惑うが、表情と物腰で語るばーちゃんが不器用な三兄妹に本当の自分を見つける手助けをしてくれるのです。

同監督作品の『かもめ食堂』でもそうだったが、登場する料理がとにかく美味しそう。お寿司、餃子、煮物など日本ではごくごく普通のラインナップなのだが、三兄妹とばーちゃんが囲む食卓はどこか温かくてほっくりする。夜中に餃子を焼いてビールをきゅっと飲むシーンなんかはもうたまらない。

三兄妹の中でも一番個性的で気に入ったのが長男のモーリー。天才的なピアノの腕前を持ちながら4年前のある事件以来心を閉ざして家に引きこもり、一切ピアノを弾かなくなってしまった。部屋の片付け最中に発見した母親の遺品である古いミシンに興味を持ちばーちゃんに使い方を手ほどきしてもらう。パニックを起こしてしまうため4年間一歩も外に出たことがなかった彼が意を決して生地を買いに行き、まるでピアノを演奏するかのごとくミシンを操って完成させたものはなんとロングスカート!!その可愛らしいスカートを履いたモーリーの達成感あふれる様子がぐっときますね。

人付き合いの苦手な次男のレイは一見すると三兄妹の中で一番しっかりしていて社会に順応しているように見えるが実は一番殻に篭った性格だと感じた。真面目に働いているし、職場で会話をする同僚もいるが家族という枠組みからは少し浮いている雰囲気が最初から漂っている。「レイは昔から冷たい」とモーリーやリサに何度か言われるのもそれを如実に表している。そしてそのレイの凍った部分を溶かして積極的に誰かの為に何かをしたい気持ちにさせてくれるのがやはりばーちゃんという存在なのである。朝のトイレのあとの深いため息に真っ先に気づいたレイはそれを訝しく思い、その謎は同僚のインド人が解決してくれることとなる。つまり、日本のトイレは和式と洋式二種類あり、特にウォシュレットの技術は世界一であると。このように異国の地でありながら衣食住に関する日本文化が散りばめられていることがこの映画を日本映画に留まらせている。ばーちゃんとトイレ。

おばあちゃんの知恵袋と言われるように言葉は通じなくてもばーちゃんは何でも知っているのである。

全体的にまったりほんわかした癒し系の映画です。心が疲れたときはばーちゃんに甘えてみましょう。

トイレット [DVD]

トイレット [DVD]