神話画から抜け出した英雄たち、『インモータルズ-神々の戦い-』

遅ればせながらあけましておめでとうございます。今年も亀の歩みのごとく遅い更新でのらりくらりといきたいと思います。

というわけで。去年のいつぞやに観た『インモータルズ-神々の戦い-』の感想です。ギリシャ神話をモチーフにした血湧き肉踊るアクションスペクタクル。監督は『ザ・セル』のターセム・シンで、あの映像美と世界観が私はとても好きなのです。あのエキゾチスムと現代美術を融合させたような映像は今回さらにより絵画的なタッチとなっておりました。

その昔オリンポスの神々と闇の神タイタン族が世界の覇権を巡って戦い、戦いに敗れたタイタン族はタルタロスの山の地底深くに幽閉された。さらに何百年の時を経てミッキー・ローク扮するイクラリオン国王のハイペリオンが世界制服を企みギリシャの村々を破壊し、タイタン族を解放することができる「エピロスの弓」を探していた。このエピロスの弓の在り処を知るのは未来の予知能力を持つ巫女パイドラ。ハイペリオンによって捕えられたパイドラが同じく奴隷捕虜とされた青年テセウスに触れた瞬間に彼が全知全能の神ゼウスに選ばれた者だということを見抜く。パイドラはテセウスと逃亡を図りハイペリオンを倒すべく旅立つのだった。

で、神々はいつ出てくるのだ?と疑問に思う方も多いと思うのですが、ちゃんと終盤で出てきますよ。終盤で。大半はテセウスハイペリオンを主軸にした人間同士の戦いなので舌は切り取られるわ、金玉はハンマーでつぶされるわ、首は飛ぶわもう血なまぐさいことこの上なくて私はとても興奮しましたっっ。一方神様たちの戦い方はちんけな人間共とは一味違って何事もダイナミック。突然天空からずどーんと現れたかと思いきやゴキブリのような動きのタイタン族を目にも止まらぬ速さすぎて逆に止まって見える?みたいなモーションでぶった斬っていく。(でも意外と弱い)お話自体はあくまでも神話をモチーフにしているってだけですが、クレタ島の迷宮に住むミノタウロスに当たるシーンなど随所で神話に基づく描写がありました。(回廊でちゃんと足あとがついていたり。)
その金ぴかなコスチュームは聖星矢を彷彿とさせる。そう、このコスチュームがねとてもアーティスティックですのよ。フランシス・コッポラ監督の『ドラキュラ』でアカデミー賞の衣装デザイン賞を取った石岡瑛子さんが担当されているのです。神様たちのブロンズ像のようなコスチュームも素敵なんだけど、私が特に気に入ったのは巫女の真っ赤な衣装。砂漠の水飲み場にやってきた時はコプト教結婚式で花嫁が纏う衣装のようで神秘的だった。あと、ミッキー・ロークが途中でかぶるクワガタみたいな兜が可愛くて可愛くて(笑)なにそれクワガタコス?ねぇ?ムシキングって心の中できゃっきゃしてました。

映像は全体的に明暗と色の濃淡が強くレンブラントのようで、躍動的な動きはカラヴァッジオのような大胆な構図を思い浮かべる。そして最後の最後、天空で神々とタイタン族が剣を交えるシーンはサン・ティニャーツィオ聖堂にあるポッツォの『聖イグナティウス・ロヨラの栄光』のような壮大な画。他にも一枚一枚の絵を繋ぎ合わせたような映像美に神話画が好きな私は始終はふはふしておりました。

こういう画像を見るとどうしてもモンスター・エンジンの「神々の遊び」ネタが浮かんでしまって実は鑑賞中もちょっと思い出してた悪い子です(てへ)

最後にこれはあくまでも私見なのですが。パイドラが最初に予見したイメージにはテセウスハイペリオンが手を取り合ってエピロスの弓を手にしているところでしたが、あれは二人が相反する側面を象徴したドッペルゲンガーであることを暗に示しているように感じたのです。だからラストの戦いもテセウスハイペリオンの一騎打ちなのではと。

インド人ターセム・シン監督のエキゾチックな映像。いいねっ!これからも期待してます!